横山輝明です。
運送業許可の相談を受けていると、「整備管理者って誰を選べばいいんですか」という質問がけっこう多い。
車両5台を揃えて、運行管理者の試験も合格して、さあ申請しようと思ったところで「整備管理者が要件を満たしていない」と気づいて止まってしまう。そのパターンが少なくないです。
「長年トラックを運転してきた」「車に詳しい」だけでは整備管理者にはなれません。実務経験か資格か、どちらかが必要で、要件を知らずに進めると申請が数か月単位で止まることがあります。
この記事では、整備管理者の要件・資格・研修・届出と、よくある落とし穴を整理します。現場で28年間トラックに乗り続けてきた目線で書いています。
整備管理者とは何をする人か
整備管理者は、会社が使う車両の点検・整備を管理する責任者です。根拠は道路運送車両法第50条。使用する自動車が5台以上になると選任義務が生じます。
一般貨物自動車運送事業の許可を受けるには、運行管理者だけでなく整備管理者も確保しておく必要があります。どちらか一方でも要件を満たさなければ、許可は受けられません。
法令上の主な役割はこうなっています。
整備管理者の主な職務(道路運送車両法より)
- 日常点検の実施方法を定めること
- 日常点検の結果に基づき、運行の可否を決定すること
- 定期点検を実施すること
- 点検整備記録簿その他の記録簿を管理すること
- 自動車車庫を管理すること
- 運転者・整備員その他の者を指導・監督すること
一言で言うと「この車、今日走らせて大丈夫か」を判断する責任者です。ドライバーが毎朝書く日常点検チェック表を確認して、走行可否を決めるのも整備管理者の仕事です。
整備管理者になるための2つのルート
整備管理者になれる人は、法律で決まっています。「長年トラックを運転してきた」「車に詳しい」だけでは要件を満たしません。
ルートは2つです。
現場で多いのは①の実務経験ルートです。整備士資格を持っている人間が社内にいるケースは、中小の運送会社ではそれほど多くありません。
なお、運行管理者との違いや兼任については別記事で詳しく解説しています。→ 運行管理者の選任とは?整備管理者との違いも解説
実務経験ルートの詳細
実務経験ルートで整備管理者になるには、2つの条件を両方満たす必要があります。
①「整備に関する実務経験」が2年以上あること
具体的には以下のどれかに該当する経験です。
- 整備工場・ガソリンスタンド等で点検・整備業務を行った経験
- 運送事業者の整備担当者として点検・整備業務を行った経験
- 整備管理者または補助者として車両管理業務を行った経験
注意点が一つあります。「管理しようとする車両と同じ種類」の実務経験であることが条件です。二輪自動車の整備経験だけでは、トラックの整備管理者にはなれません。
また、1社で2年に満たない場合は複数社の期間を合算できます。実務経験の証明は、在籍していた会社に実務経験証明書を書いてもらう形になります。以前は会社印が必要でしたが、近年の捺印省略の流れで不要になりました。
白ナンバー車両の経験は使えるか?
運輸局によって判断が異なります。白ナンバー車両の整備経験しかない場合は、所轄運輸支局の整備担当窓口に事前に確認することをおすすめします。
②整備管理者選任前研修を修了していること
実務経験2年があっても、この研修を修了していないと整備管理者に選任されません。
研修は各運輸支局が年に数回開催しています。時間は2時間程度で、試験はありません。ただし申込みが始まるとすぐに満員になることが多いので、早めに動くのが鉄則です。
許可申請をする運輸支局と別の場所で研修を受けていても問題ありません。どこの運輸支局の研修でも有効です。
ちなみに実務経験が2年未満でも研修の受講は可能です。将来的に整備管理者になる可能性がある社員がいるなら、早めに研修だけ受けておくのも手です。
自動車整備士資格ルートの詳細
1〜3級の自動車整備士資格があれば、実務経験と研修なしに整備管理者になれます。該当する資格は以下のとおりです。
- 一級大型自動車整備士
- 一級小型自動車整備士
- 一級二輪自動車整備士
- 二級ガソリン自動車整備士
- 二級ジーゼル自動車整備士
- 二級自動車シャシ整備士
- 二級二輪自動車整備士
- 三級自動車シャシ整備士
- 三級自動車ガソリン・エンジン整備士
- 三級自動車ジーゼル・エンジン整備士
- 三級二輪自動車整備士
運送業でよく使われるのは二級ジーゼル自動車整備士です。ディーゼルエンジンのトラックを扱う運送会社では、この資格を持っている人間が整備管理者になるケースが多いです。
ただし、整備士資格は短期間で取れるものではありません。「許可申請を始めてから取ろう」は現実的ではないので、資格ルートを使えるかどうかは最初の段階で確認しておくことが大事です。
選任届出の手続き
整備管理者を選任したら、管轄の運輸支局に届出が必要です。運送業許可申請の書類の中に整備管理者の情報を記載する形になります。
届出に必要な書類
- 整備管理者選任届出書
- 資格ルートの場合:整備士手帳の写しなど資格を証明する書類
- 実務経験ルートの場合:実務経験証明書+選任前研修修了証
また、整備管理者が退職などで変わった場合も変更届が必要です。後任が決まる前に退職されると空白期間が生じますが、これは法令違反になります。
⚠️ 整備管理者の外部委託は原則禁止
整備管理者はグループ企業内で一定の条件を満たすケース以外、外部への委託は認められていません。「外部の整備業者に頼めばいい」という話ではないので注意が必要です。
さらに、1人で複数の事業者の整備管理者を兼任することもできません。以前の勤務先で整備管理者になっていた場合は、そちらを解任してから選任する必要があります。
なお、同じ営業所内であれば整備管理者と運行管理者の兼任は可能です。ただし複数営業所の整備管理者を1人で兼任するのは、現実的に難しいと考えておいたほうがいいです。
整備管理者が見つからない場合
「整備士資格を持った社員がいない」「実務経験が証明できる人間もいない」。この状況、相談の中でかなり多いです。
運行管理者は試験さえ受ければ誰でもなれますが、整備管理者はそうじゃないので、ここが許可取得の一番のハードルになることがあります。
対処法は主に3つです。
① 既存の社員を実務経験ルートで育てる
整備の実務経験が2年以上ある社員に選任前研修を受けてもらう。社内で完結するので一番安定するが、要件を満たす人間がいるかどうかの確認が先決です。
② 資格保有者を採用する
整備士資格を持つ人材を採用する。ただし許可申請のタイミングに合わせるのが難しいことも多い。求人から採用まで時間がかかる前提で動く必要があります。
③ 役員・社長自身が要件を満たす
社長や役員がガソリンスタンドや整備工場での勤務経験を2年以上持っている場合は、自ら整備管理者になれます。実務経験の内容と証明方法を整理してから動くのが確実です。
実際には、この段階で許可申請が数か月遅れるケースもあります。会社設立より前に整備管理者の確保を確認しておくことをおすすめします。
よくある質問
Q. 整備管理者は社長でもなれますか?
実務経験または整備士資格など要件を満たしていれば可能です。代表者自身が整備管理者になる会社も少なくありません。ただし、整備管理者は常時勤務していることが求められるため、社長が現場を離れがちな場合は実態として機能させられるかも合わせて検討してください。
Q. 整備管理者と運行管理者は同じ人が兼任できますか?
同じ営業所内であれば兼任可能です。ただし複数の営業所を1人で掛け持ちするのは現実的に難しく、また1人で複数の事業者の整備管理者になることはできません。詳しくは運行管理者の選任についての解説記事もご参照ください。
Q. 整備管理者が退職した場合はどうなりますか?
速やかに後任を選任し、変更届を提出する必要があります。空白期間は法令違反になるため、退職が決まった時点で後任の確保を同時に進めることが重要です。
巡回指導・監査で実際に見られること
許可が下りた後も、整備管理者は「選任しておけばそれでいい」という話ではありません。
巡回指導や監査で真っ先に確認されるのは、整備管理者が実態として機能しているかどうかです。
具体的には、こういうところを見られます。
- 日常点検チェック表が毎日記録されているか
- 整備管理者がその記録を確認したサインや印があるか
- 定期点検整備記録簿がきちんと保管されているか
- 整備不良が発見されたときの対処記録があるか
- 整備管理者が本当に常時勤務しているか
書類だけ整えていても、整備管理者本人が自分の仕事内容を説明できなければ指導対象になることがあります。
現場28年からひと言
水道工事・古紙回収・危険物輸送と、28年間いろんな現場を経験してきました。その中で一番怖いのは、整備不良の車を知らずに走らせることです。タイヤ、ブレーキ、灯火類。毎朝のチェックが実際に機能しているかどうか、これが全部です。名前だけ書いてある整備管理者が実態のない存在になっていると、監査で詰められた時に何も言えなくなる。それ以上に、現場で取り返しのつかないことが起きる可能性がある。許可のための書類を整えるより、安全に車を走らせる仕組みとして整備管理者を機能させてください。
整備管理者は「名前だけ置けばいい役職」ではありません。
許可取得だけでなく、安全運行を支える重要な役割です。
📝 noteマネーピックアップ 13回掲載
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