運送業許可は相続できる?
承継認可の手続き・60日ルールを行政書士が解説します
横山輝明です。運送業許可の世界では、「先代が急に亡くなって、事業をどう続けたらいいか分からない」という状況に直面する事業者の方も少なくありません。個人事業主として一般貨物自動車運送事業の許可を受けている場合、その許可は許可を受けた個人に対して与えられています。そのため、経営者が亡くなった場合の扱いには、通常の事業承継とは違う注意点があります。この記事では、個人事業主として運送業許可を受けていた経営者が亡くなった場合に、事業を続けていくための基本的な考え方をまとめました。
運送業許可には「承継認可」という制度がある
個人事業主として一般貨物自動車運送事業の許可を受けている場合、その許可は許可を受けた個人に対して与えられています。経営者が亡くなったからといって、相続人がその許可をそのまま何もせずに引き継げるわけではありません。
ただし、これは「相続できない」ということではありません。相続人が引き続き事業を継続したい場合、管轄運輸支局を経由して地方運輸局長に対して「認可」を申請する制度があります。この認可を受ければ、相続人が被相続人(亡くなった方)の運送業許可の権利と義務を承継することができます。
ポイント:この認可の申請期限は、被相続人が亡くなった日から60日以内です。申請をしておけば、死亡の日から認可の可否の通知を受けるまでの間、従前の許可が有効なものとして扱われます。60日という期限は、想像以上に短く感じられる方が多いので、早めの対応が重要です。
認可申請に必要な書類
近畿運輸局が公表している例では、認可申請の際に、申請書のほかに次のような書類が求められます。
- 申請者と被相続人との続柄を証する書類
- 申請者が現に一般貨物自動車運送事業を経営していない場合は、資産目録・履歴書
- 申請者以外にも相続人がいる場合は、事業を申請者が継続して経営することへの同意書
- 欠格事項に該当しないことを証する書類(懲役刑や許可取消しから5年を経過していないこと等)
- 事業計画の新旧対照表(営業所・車庫・休憩所等)
- 運行管理の体制(点呼・点検・報告連絡体制・事故防止指導教育・苦情処理体制)を記載した書類
- 事業開始に要する資金及び調達方法(自己資金が、人件費6か月分・運転資金6か月分・設備費等の合計額以上であることを、残高証明書等で確認)
- 運行管理者・整備管理者の資格者証の写しおよび運転者一覧表
- 事業用施設の概要・付近の状況を記載した書類(案内図、使用権原を証する書面、車庫前面道路の写真など)
- 計画する事業用自動車の一覧表
必要書類は管轄の運輸局によって多少異なる場合がありますが、資産目録や運行管理体制の説明など、事前に整理しておかないと60日以内に揃えるのが難しい書類も含まれています。早い段階で管轄の運輸局に確認しながら進めることをお勧めします。
相続人が複数いる場合の注意点
相続人が複数いる場合、申請者以外の相続人から「申請者が事業を継続して経営することへの同意書」を得る必要があります。相続人同士の話し合いがまとまらないまま時間が過ぎてしまうと、60日という期限内に必要書類を揃えられなくなるおそれがあります。事業を継ぐ人を早めに決め、他の相続人の理解を得ておくことが、スムーズな手続きにつながります。
法人の場合は状況が異なる
これまで説明してきたのは、個人事業主として許可を受けている場合の話です。法人として運送業許可を取得している場合、代表者が亡くなったとしても、許可自体は法人に対して出されているため、個人事業主のケースとは扱いが異なります。ただし、代表者の変更届出など、別の手続きが必要になる場合があります。
事業承継を見据えて、あらかじめ個人事業から法人化を検討する事業者も少なくありません。どちらの形態が事業の実情に合っているかは、許可の承継の観点だけでなく、税務や労務など複数の視点から検討する必要があります。
生前からの準備が重要
60日という期限の中で、資産目録や運行管理体制の説明、施設の使用権原を証する書類などを一から揃えるのは、想像以上に時間がかかります。だからこそ、生前の段階から「誰が事業を継ぐのか」「個人事業のままでいいのか、法人化すべきか」を考えておくことが、事業を止めないための備えになります。
運行管理者・整備管理者の選任状況や、営業所・車庫の契約関係なども、承継の際に確認が必要になる要素です。これらをあらかじめ整理しておくことで、いざというときの手続きがスムーズになります。
現場経験28年からのチェックポイント
水道工事・古紙回収・危険物輸送と、現場で長く働いてきた立場から言うと、経営者が突然いなくなると、現場は許可の話より先に「今日の運行をどうするか」で頭がいっぱいになります。ドライバーや荷主への対応で手一杯になり、60日という期限をあとから知って焦る、というケースも見てきました。手続きには明確な期限があるからこそ、事業を継ぐ可能性がある方は、平時のうちに一度、承継認可の制度について確認しておくことをお勧めします。
よくある質問
- Q. 認可の申請期限はいつまでですか?
A. 被相続人が亡くなった日から60日以内です。この期限を過ぎると、事業の継続が難しくなるおそれがあります。 - Q. 申請してから認可が出るまで、事業は止まりますか?
A. 申請をしておけば、死亡の日から認可の可否の通知を受けるまでの間、従前の許可が有効なものとして扱われます。 - Q. 相続人が複数いる場合、誰でも事業を継げますか?
A. 申請者以外の相続人から、事業継続への同意書を得る必要があります。話し合いが整わないと、60日以内の手続きに支障が出ることがあります。 - Q. 法人化しておけば、こうした問題は起きませんか?
A. 法人の場合、許可は法人に対して出されているため、個人事業主のケースとは扱いが異なります。ただし、代表者変更などの別の手続きが必要になる場合があります。
運送業許可は、経営者が亡くなったからといって相続できないわけではなく、承継のための認可制度が用意されています。ただし、申請期限は死亡の日から60日以内と決まっており、必要書類も多岐にわたります。経営者が亡くなってから慌てるのではなく、生前の段階から準備しておくことが、事業を止めないための一番の対策になります。
参考資料
e-Gov法令検索「貨物自動車運送事業法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000083
近畿運輸局「事業承継される方へ」
https://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/00001_03128.html
※本記事は近畿運輸局の公表資料に基づく必要書類の例を紹介していますが、必要書類・運用の詳細は管轄の運輸局によって異なる場合があります。個別の状況については、必ず管轄の運輸支局または専門家にご確認ください。


