横山輝明です。
危険物を積んだタンクローリーに乗っていた頃、「事故を起こせば会社が終わる」という緊張感は毎日あった。運送業というのは、書類一枚・記録一行が会社の命運を左右することがある仕事だ。行政書士になって巡回指導や監査対策の相談を受けるようになって、あらためてそれを感じる。
「監査って、何をされるんですか」と聞かれるたびに、もう少し早く知っておいてほしかったと思うことがある。この記事はそのために書いた。
目次
監査と巡回指導、何が違うのか
まずここを混同している事業者が多い。どちらも担当者が事業所に来て確認するという点では同じだが、実施する機関も、結果の重さも、まったく違う。
| 監査 | 巡回指導 | |
|---|---|---|
| 実施機関 | 運輸支局(国) | トラック協会(適正化事業実施機関) |
| タイミング | 事故・違反・通報などをきっかけに | 開業後早い時期に実施され、その後もおおむね2〜3年ごとに実施 |
| 違反発覚時 | 違反内容によっては行政処分の対象となり、重大な場合は事業停止や許可取消しとなることがあります | 基本は指導。悪質な場合は運輸支局へ通報 |
| 事前通知 | 原則として事前通知なく実施されます | 事前に通知あり |
巡回指導の結果や法令違反の内容によっては、運輸支局へ情報提供・通報され、監査につながる場合があります。「巡回指導だから大丈夫」という気持ちは、捨てたほうがいい。
監査の種類は3つある
特別監査(通称:トッカン)
3つのなかで最も重い。重大事故を起こした事業者、悪質な違反が発覚した事業者、行政処分後に改善報告を拒否した事業者が対象になる。業界では「トッカン」と呼ばれることがあります。これが実施されると、事業停止や許可取り消しにつながるケースもある。
一般監査
監査のきっかけに応じた重点項目を定めて実施する。一般監査の途中で「もっと詳しく確認が必要」と判断されると、特別監査に切り替わることもある。ほとんどの監査はここから始まる。
街頭監査
バスの発着場などで事業者を特定せず行う抜き打ちチェック。一般貨物運送事業者が対象になるケースは多くありません。
監査が来る代表的なきっかけ
「うちは普通にやっているから来ないだろう」という感覚は、あまり当てにならない。国土交通省の監査方針や運用上、監査につながる代表的なケースとして次のようなものがあります。
ア)法令違反の疑いがあるとき
退職した従業員やライバル会社からの通報で動くことも多い。辞め方が悪かったドライバーが、在籍中に見ていた帳票の不備を申告するケースは実際にある。人間関係のトラブルが、監査につながることがあるということだ。
イ)ドライバーが死亡事故を起こしたとき
第一当事者と推定される死亡事故が対象。過労運転・長時間労働の強制がなかったかを中心に、労働時間管理全般がチェックされる。貸し切りバスの事故報道で見る光景は、トラック事業者にも無縁ではない。
ウ)ドライバーが悪質な違反をしたとき
酒酔い・酒気帯び運転、過労運転、薬物使用運転、無免許・無資格運転、無車検・無保険運行、救護義務違反(ひき逃げ)が対象になる。会社がきちんと点呼をしていたかどうかも問われる。
エ)巡回指導を拒否したとき
「忙しいから」「準備ができていないから」という理由は通じない。巡回指導を正当な理由なく拒否した場合は、監査につながる可能性があります。
オ)行政処分後に改善報告をしなかったとき
処分を受けた後の対応が問われる。出頭拒否・改善報告の未提出・改善が認められない、こうした改善命令等への対応状況によっては、特別監査の対象となる場合があります。
カ)事故報告書を提出しなかったとき、内容に問題があるとき
提出期限に間に合わない、虚偽の記載がある、記載内容から法令違反の疑いが生じる、このいずれかで対象になる。「出したつもりだった」では済まない。
キ)社会保険・最低賃金の問題があるとき
健康保険・労働保険・雇用保険・厚生年金の未加入、最低賃金違反が対象。労働関係行政機関や日本年金機構からの通報で発覚することが多い。ドライバー自身が法律を知るようになってきた今、内部告発のリスクは以前より高い。
ク)同種・同原因の事故を3年間に3回以上起こしたとき
事故報告書に記載する「原因」と「種類区分」が同じものを、3年間で3回以上繰り返すと対象になる。再発防止が機能していないと判断される。
ケ)その他
基本的な安全管理体制の不備、苦情、事件など、必要があると判断された場合に実施されることもあります。
巡回指導38チェック項目を全解説
巡回指導のチェック項目は全38項目。7つのカテゴリに分かれている。評価はA〜Eの5段階で、改善指摘を受けた場合は後日報告義務がある。
※ チェック項目は執筆時点の巡回指導項目に基づいています。制度改正により内容が変更される場合があります。
【①事業計画等】8項目
- 主たる事務所・営業所の名称・位置に変更はないか
- 営業所に配置する事業用自動車の種別・数に変更はないか
- 自動車車庫の位置・収容能力に変更はないか
- 乗務員の休憩・睡眠施設の位置・収容能力は適正か
- 乗務員の休憩・睡眠施設の保守・管理は適正か
- 届出事項に変更はないか(役員・社員、需要者名称変更等)
- 白トラの利用等、違法な営業類似行為はないか
- 名義貸し・事業の貸渡し等はないか
▶ 「増車したけど届出を忘れていた」は典型的な指摘事例。変更が生じたときは、その都度確認する癖をつけておきたい。
【②帳票類の整備・報告等】5項目
- 事故記録が適正に記録・保存されているか
- 自動車事故報告書を提出しているか
- 運転者台帳が適正に記入・保存されているか
- 車両台帳が整備・適正に記入されているか
- 事業報告書・事業実績報告書を提出しているか(本社巡回のみ)
▶ 台帳の「空欄」「最終更新が数年前」は指摘を受けやすいポイントです。半年に一度は見直したい。
【③運行管理等】12項目
- 運行管理規程が定められているか
- 運行管理者が選任・届出されているか
- 運行管理者に所定の講習を受けさせているか
- 事業計画に従い、必要な運転者を確保しているか
- 過労防止を配慮した勤務・乗務時間が定められ、乗務割が作成されているか
- 過積載による運送を行っていないか
- 点呼の実施・記録・保存は適正か
- 乗務等の記録(運転日報)の作成・保存は適正か
- 運行記録計による記録・保存・活用は適正か
- 運行指示書の作成・指示・携行・保存は適正か
- 乗務員への輸送安全確保に必要な指導監督を行っているか
- 特定の運転者への特別な指導・適性診断を実施しているか
▶ 点呼記録は最重点確認項目。対面点呼・アルコール検知器の使用・記録の空白なし、この3点は必ず整備を。
【④車両管理等】5項目
- 整備管理規程が定められているか
- 整備管理者が選任・届出されているか
- 整備管理者に所定の研修を受けさせているか
- 日常点検基準を作成し、適正に点検を行っているか
- 定期点検基準を作成し、点検整備記録簿等が保存されているか
▶ 日常点検の記録が「毎日ある」かどうか。後日まとめて記入したと疑われる記録は、適正な管理とは評価されにくい。
【⑤労基法等】4項目
- 就業規則が制定・届出されているか
- 36協定が締結・届出されているか
- 労働時間・休日労働について違法性はないか(運転時間を除く)
- 所要の健康診断を実施し、記録・保存が適正にされているか
【⑥法定福利費】2項目
- 労災保険・雇用保険に加入しているか
- 健康保険・厚生年金保険に加入しているか
【⑦運輸安全マネジメント】1項目
- 運輸安全マネジメントの実施は適正か
▶ 中小の事業者ほど「手をつけていない」が多い項目。最低限の書面整備だけでも、早めに手をつけておきたい。
運転者への指導監督12項目と記録の残し方
運送事業者には、運転者に対して下記12項目の指導を計画的に実施し、教育記録簿として保存する義務がある。
- トラックを運転する場合の心構え
- 運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項
- トラックの構造上の特性
- 貨物の正しい積載方法
- 過積載の危険性
- 危険物を運搬する場合に留意すべき事項
- 適切な運行の経路と道路・交通状況
- 危険の予測及び回避
- 運転者の運転適性に応じた安全運転
- 交通事故に関わる生理的・心理的要因とその対処方法
- 健康管理の重要性
- 安全装置を備える事業用自動車の適切な運転方法
実施のポイントは3つ。
- 全員が一度に集まれなくても班に分けて実施してよい
- 一回の実施で複数項目をまとめてもよい
- テキストは国土交通省の「一般的な指導及び監督の実施マニュアル」(概要編・本編)を活用する
記録簿には実施日・場所・実施者・内容・出席者氏名など実施状況が確認できる情報を記載し、使用したテキストも一緒にファイルしておく。「やった」だけでは足りない。記録が残っていてはじめて「実施した」と認められる。
詳細は「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(国土交通省)に記載されている。
事業実績報告書の提出義務
毎年4月1日〜翌年3月31日の輸送実績を、毎年7月10日までに運輸支局へ提出しなければならない。これを忘れている事業者が、意外なほど多い。
記載する内容は以下のとおり。
- 事業用自動車数・従業員数・運転者数・事業内容
- 管轄運輸支局ごとの延実在車両数(日車)・延実働車両数(日車)
- 走行キロ数・実車キロ数
- 輸送トン数(実運送・利用運送それぞれ)
- 営業収入・事故件数
年度末になって慌てる会社は少なくない。日頃から数字を整理している会社ほど、提出もスムーズです。7月10日という期限は、動き始めるのが遅いと思った以上に早く来る。
現場28年チェックポイント
🔍 現場経験28年・行政書士が見るポイント
- 点呼記録に空白日はないか
- 運転者台帳の記載は最新状態か
- 日常点検票は当日付けで記録されているか(後日まとめ記入は不可)
- 運行管理者・整備管理者の講習受講記録は保存されているか
- 社会保険の加入状況に漏れはないか
- 増車・車庫変更・役員変更などの変更届を出しているか
- 指導教育の記録簿とテキストがセットで保管されているか
- 事業実績報告書を7月10日までに提出しているか
まとめ
監査は、特別な悪いことをした会社だけに来るわけではない。記録の抜け、届出の忘れ、社会保険の未加入。そういった積み重ねが引き金になることもある。
水道工事の現場にいた頃、「書類仕事は現場仕事と同じ」と先輩に言われたことがある。ずさんな書類仕事は、ずさんな施工と同じだと。運送業の帳票管理も、まったく同じだと思っている。
日常の記録・届出・保管。これを積み上げていれば、監査が来ても慌てることはない。「いつ来てもいい状態」を作ることが、最大の監査対策だ。
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